Snapdragon 6 Gen 1を初搭載したmoto g stylus 5G (2023)が発表・販売され、ベンチマークスコアが判明したので、Snapdragon 6シリーズのSoCと比較します。
Snapdragon 6 Gen 1が発表されたのは2022年9月ですが、初搭載製品が発表されたのは2023年5月です。何故1年近くも遅れてしまったのか知る由もありませんが、この供給の遅れによって多くの企業はSnapdragon 695 5Gを搭載した製品を発表せざるを得ない状況になりました。
Snapdragon 6 Gen 1の主なスペックは、製造プロセスはSamsung 4nm 4LPX、CPUはKryoで最大2.21GHzで動作するCortex-A78を4基、最大1.80GHzのCortex-A55を4基の4+4構成、GPUはAdreno 710、RAM規格はLPDDR5、内蔵ストレージ規格はUFS 3.1、5Gに対応しSub-6GHz帯とmmWave (ミリ波)をサポート、この他の通信としてWi-Fi 6E、Bluetooth 5.2をサポートします。
Snapdragon 6 Gen 1はSnapdragon 6シリーズとして初の「Gen X」製品で、新しい命名規則が採用されています。6シリーズ以外は次の世代となる「Gen 2」がすでに市場に出ていますが、このシリーズは未だに「Gen 1」しかありません。
Snapdragon 6 Gen 1の製造プロセスはSamsung 4nm 4LPXです。一部のメディアではSF4E (旧称: 4LPE)を採用していると伝えていますが、韓国の情報通はQualcommがこのプロセスノードを採用した形跡がないと報告していますので、4LPXで間違いないと思います。
この4LPXは高負荷な要求をされると過度な発熱と性能低下を引き起こしたSnapdragon 8 Gen 1を製造したプロセスで、これを聞くといい印象を抱かないかもしれません。ただ、サムスン電子は4nmプロセスの歩留まりの問題を解消したと発表していますので、Snapdragon 8 Gen 1とSnapdragon 6 Gen 1の製造プロセスは4nm 4LPXで同じですが、歩留まりの解消による技術的な差はあるかもしれません。
CPUは、最大2.21GHzのCortex-A78と最大1.80GHzのCortex-A55を組み合わせ、これは従来製品のSnapdragon 695 5Gと同じですがコア数に変化があります。Snapdragon 6 Gen 1は4+4構成、Snapdragon 695 5Gは2+6構成になっていますので、高性能側のCortex-A78のコア数が増えています。
GPUはAdreno 710を採用しており、Snapdragon 6シリーズで第7世代のAdrenoを初めて採用した製品となりました。6世代のAdreno 619から7世代のAdreno 710に進化していますので、大幅な性能の向上に期待ができます。
RAM規格はLPDDR4XではなくLPDDR5をサポートしていますが、メモリクロックは3200MHzではなく2750MHzになっています。これによって私たちが不利益を被ることはほとんどありませんが、Snapdragon 6 Gen 1はLPDDR5 RAMの本来の性能を発揮しない製品であることを理解しておく必要はありそうです。
AnTuTu Benchmark v10 OBにおけるSnapdragon 6 Gen 1の性能は、CPU性能は201,202点、GPU性能 (Lite版)は134,937点、MEM性能は131,731点、UX性能は131,068点で、総合性能は598,938点となりました。
CPU性能はSnapdragon 695 5Gの性能を100%とすると、約30.4%の成長に成功しました。これはCortex-A78が2基から4基に増えたことが関係し、また、製造プロセスが6nmプロセスから4nmプロセスに微細化し電力効率が向上したことが成長の要因と考えています。
GPU性能は同じくSnapdragon 695 5Gの性能を100%とすると、約30.9%の成長に成功しました。これは前述の通りAdreno 619からAdreno 710になったことが要因で、7世代のAdrenoの性能の高さを証明しました。
総合性能は60万点に迫り、Snapdragon 6 Gen 1によってSnapdragon 6シリーズの性能の底上げが行われました。ちなみに、上位のSnapdragon 7 Gen 1の総合性能は約71万点、下位のSnapdragon 4 Gen 1は約44万点で、Snapdragon 6 Gen 1の性能はちょうど間に位置しています。
Geekbench 6におけるSnapdragon 6 Gen 1の性能は、シングルコア性能は968点、マルチコア性能は2,851点となりました。Geekbench 6はAnTuTu Benchmarkと異なって基準点が存在しており、2022年1月に発表されたPC向けのIntel Core i7-12700のシングルコア性能が2,500点に設定されています。そのため、このCPUを基準として倍の計測時間であれば1,250点、半分の計測時間であれば5,000点となりますので、基準点が設定されていることで自分が所有するデバイスのCPUがどの程度の性能なのかわかりやすくなっています。
シングルコア性能は968点で、Snapdragon 695 5Gから約5.7%の成長に成功しました。大幅な成長ができなかった要因として考えられるのは、最大2.21GHzのCortex-A78を共通して採用しているためで、差を生み出したのは6nmプロセスなのか4nmプロセスなのかだけだと考えています。
マルチコア性能は2,851点で、Snapdragon 695 5Gから約33.9%の成長に成功しました。こちらは大幅な成長に成功しており、高性能側のCortex-A78のコア数が2基から4基に倍増し、また、製造プロセスが微細化したことも成長を促したと考えています。
Snapdragon 6 Gen 1は同シリーズ初の「Gen X」の製品で、その力を余すことなく発揮できているように感じます。CPUはCortex-A78が4基に倍増したこと、GPUは7世代のAdrenoを採用したことが相まってSnapdragon 695 5Gから成長することに成功しました。
そんな素晴らしい性能を発揮したSnapdragon 6 Gen 1ですが、現時点では初搭載機のmoto g stylus 5G (2023)と中国市場で初搭載したHONOR X50しか搭載した製品がなく、入手の難度が異常に高いことが欠点のひとつとして挙げられます。
日本市場では今のところSnapdragon 6 Gen 1を搭載した製品は発表されていません。ただ、期待できるところとして、従来製品のSnapdragon 695 5Gを搭載したOPPO Reno9 A、moto g52 5G IIなどが発表されているので、日本市場はSnapdragon 6シリーズを搭載した製品が発表しやすい市場なのではないかと考えています。そのため、近い将来にSnapdragon 6 Gen 1を搭載した製品が発表される可能性があります。
参考価格としてアメリカ合衆国でのmoto g stylus 5G (2023)は、6GB+256GBモデルが299.99米ドル (約44,000円)に設定されています。これは販売からいくつか経って割引された価格なので発表時の価格を記載すると、399.99米ドル (約58,000円)と高価なミドルレンジ製品として発表されていました。