中国のHUAWEIは同じく中国のファウンドリ企業のSMIC (中芯国際集成電路製造)と協力して5G通信に対応したKirin (麒麟)の復活を画策していますが、肝心の製造を行うSMIC側にさまざまな問題を抱えていることがわかりました。
Nikkei Asiaは、かつて世界を支配しそうだったHUAWEIが、SMICと協力して5G通信に対応した自社開発SoCを今後数ヶ月以内に量産化する予定であると、この件に詳しい関係者二人が同メディアに対して語ったと明らかにしました。
HUAWEIは2020年に当時トランプ政権下のアメリカ合衆国が制裁を行い、アメリカ合衆国由来の最先端の主要な技術や世界の重要なサプライヤーへのアクセスがサダンされて以降は、同社は最先端のSoCの製造が不可能になりました。
そして、協力先の残念なことにSMICも、中国人民解放軍と (中国軍)との関係疑惑があるとされて2020年の末からアメリカ合衆国の貿易ブラックリストの掲載され、こちらも同様にアメリカ合衆国由来の技術やそれを利用する多くのサプライヤーと協力することが不可能になりました。
特に苦しいのは製造プロセスの微細化 (例: 10nmから7nm)に必要なオランダ企業のASMLが開発し多くのファブレス企業に供給しているEUV (極端紫外線)露光装置の入手が事実上不可能になり、競合他社と同じように製造プロセスの微細化ができなくなっています。
ただ、当時は従来のDUV (深紫外線)露光装置は禁輸対象となっていなかったため、SMICはそれを供給してEUV露光装置を用いないで28nmプロセス未満の製造プロセスの微細化を進めようとしていましたが、今年のはじめ頃からASMLがあるオランダがアメリカ合衆国の対中輸出制限を支持したため、その露光装置の入手も不可能になり、SMICだけでなく協力する企業が知恵を振り絞って製造プロセスの微細化を行うことになりました。
また、同様に半導体 (SoC)の製造に必要な材料を供給していた日本もオランダとほぼ同時にアメリカ合衆国の対中輸出制限に加わったため、28nmプロセス未満の微細化も出来ない上に半導体の製造も事実上不可能になり、八方塞がりの状態となりました。
SMICはHUAWEIの新しいKirinを製造するために現在利用可能な最先端プロセスとなる7nmプロセスを使用するようです。ただ、この製造プロセスはAppleやQualcommが使用している台湾のTSMCの5nmプロセスや4nmプロセスと比べると古く、製造するものが限られるためまったく太刀打ち出来るものではない可能性があります。
そして、野村證券のドニー・テン (Donnie Teng)氏は、HUAWEIがKirinチップの量産に成功すると、5G機能をオミットした特別なSnapdragonを限定的に供給しているQualcommから製品を購入する必要性が減る可能性があると述べました。この特別なSnapdragonを搭載した製品としてHUAWEI Mate 50シリーズ、P60シリーズ、nova 11シリーズなどが挙げられます。
また、同氏は「しかし、SMICの7nmプロセスの歩留まりは約50%でかなり低いと考えられており、まだ改善の余地がある」とし、「チップが入手可能であることと、チップが商用化される準備ができていることは別のことです。今後の推移を監視する価値はまだありますが、HUAWEIがチップ (Kirin)を復活させるためには多額の投資をする必要があるでしょう」と述べました。
ちなみに、SMICの7nmプロセスの歩留まりが約50%でかなり低いとされていますが、過去にはサムスン電子のファウンドリ事業部の4nmプロセスに基づく4LPXで製造したSnapdragon 8 Gen 1の歩留まりは約35%とされていた一方で、供給が止まったとの報道はまったく流れなかったので、製造ラインに不足がなければ新しいKirinチップをHUAWEIの新製品に搭載することは可能だと思います。
また、SMICの歩留まりが低くても規格適合品と、規格不適合品の中でも優秀なものを選別することが出来ればHUAWEIはさまざまな製品に搭載することが可能になるので、エントリーからハイエンドまで幅広く手掛けるHUAWEIにとってはあまり影響はないかもしれません。
過去にはKirin 820の規格不適合品を選別したKirin 820Eを、Kirin 9000の規格不適合品を選別したKirin 9000E、さらに規格不適合品を選別したKirin 9000Lを活用した経験があるので、そういったものを活用するノウハウはすでに持ち合わせています。