台湾のMediaTekは2023年11月6日に中国で新製品発表会を開催し、新SoCとしてフラッグシップ向けにDimensity 9300を発表しました。
MediaTekは同発表会で従来品のDimensity 9200の他に、Qualcommの新製品やAppleの新製品に対抗意識を燃やした演説を行っていました。こういった発表はスマートフォン市場に限らず他の市場・界隈でも同じですが、かなり敵対視し、同社の製品が優れているとアピールしている様子が見受けられました。
名称 | Dimensity 9300 | Dimensity 9200 | Dimensity 9000 |
CPU | 1x Cortex-X4
3x Cortex-X4 4x Cortex-A720 (8MB L3 Cache) |
1x Cortex-X3
3x Cortex-A715 4x Cortex-A510 Refreshed (8MB L3 Cache) |
1x Cortex-X2
3x Cortex-A710 4x Cortex-A510 (8MB L3 Cache) |
動作周波数 | 3.25GHz + 2.85GHz + 2.00GHz | 3.05GHz + 2.85GHz + 1.80GHz | 3.05GHz + 2.85GHz + 1.80GHz |
GPU | Immortalis-G720 MC12 r0p0
(HyperEngine Adaptive) |
Immortalis-G715 MC11 r1p2
(HyperEngine 6.0) |
Mali-G710 MC10 r0p0
(HyperEngine 5.0) |
動作周波数 | 1300MHz | 981MHz | 848MHz |
NPU/DSP | APU 790
(performance + Flexble) |
APU 690
(performance + Flexible) |
APU 590
(Performance + Flexible) |
カメラ | Triple 18-bit Imagiq 990 HDR-ISP
3億2000万画素 |
Triple 18-bit Imagiq 890 HDR-ISP
3億2000万画素 or 1億800万画素(ZSL) 9.0 Gigapixels per Second |
Triple 18-bit Imagiq 790 HDR-ISP
3億2000万画素 or 3x3200万画素 9.0 Gigapixels per Second |
リフレッシュレート | MiraVision 990
120Hz (4K) 180Hz (WQHD+) |
MiraVision 890
144Hz (WQHD+) 240Hz (FHD+) |
MiraVision 790
144Hz (WQHD+) 180Hz (FHD+) |
エンコード/デコード | Encode: 8K@24fps H.265, H.264
Decode: 8K@30fps H.265, H.264, VP9, AV1 |
Encode: 8K@24fps H.265, H.264
Decode: 8K@30fps H.265, H.264, VP9, AV1 |
Encode: 8K@24fps H.265, H.264
Decode: 8K@30fps H.265, H.264, VP9, AV1 |
RAM | LPDDR5T (9600Mbps)
10MB System Level Cache |
LPDDR5X (8533Mbps)
6MB System Level Cache |
LPDDR5X (7500Mbps)
6MB System Level Cache |
ストレージ | UFS 4.0 + MCQ | UFS 4.0 + MCQ | UFS 3.1 |
Wi-Fi | Wi-Fi 7 ready (11be)
6.5Gbps |
Wi-Fi 7 ready (11be)
6.5Gbps |
Wi-Fi 6/6E (11ax) |
Bluetooth | Bluetooth 5.4
LE Audio |
Bluetooth 5.3
LE Audio |
Bluetooth 5.3
LE Audio |
位置情報 | GPS, BeiDou (北斗), GLONASS, Galileo, QZSS, NavIC | GPS, BeiDou (北斗), GLONASS, Galileo, QZSS, NavIC | GPS, BeiDou (北斗), GLONASS, Galileo, QZSS, NavIC |
通信 | 統合: 5G Modem
Sub-6GHz/mmWave |
統合: 5G Modem
Sub-6GHz/mmWave (DL: 7.0Gbps/UL: 2.5Gbps) |
統合: 5G Modem
Sub-6GHz (DL: 7.0Gbps/UL: 2.5Gbps) |
充電規格 | - | - | - |
製造プロセス | TSMC 4nm N4P | TSMC 4nm N4P | TSMC 4nm N4 |
型番 | MT6989 | MT6985 | MT6893 |
Dimensity 9300の主な仕様は、製造プロセスはTSMC 4nm N4P、CPUは最大3.25GHzで動作するCortex-X4を1基と最大2.85GHzのCortex-X4を3基、最大2.00GHzのCortex-A720を4基の1+3+4構成、GPUは最大1300MHzで動作するImmortalis-G720 MC12、RAM規格はデータ転送速度が最大8533MbpsのLPDDR5T、内蔵ストレージ規格はUFS 4.0でMCQ (Multi-Circular Queue)をサポート、モバイルデータ通信は5G NRに対応しSub-6GHzとmmWave (ミリ波)をサポート、この他の通信としてWi-Fi 7 readyとBluetooth 5.4をサポートします。
製造プロセスはTSMCの4nmプロセスに基づくN4Pです。文字で表記するとDimensity 9200と同じですが、実は今回のは3世代目でより新しいものとなっています。初代はN4ですが、2世代目はN4P、3世代目もN4Pとなっており、少々ややこしいですが正しく理解しましょう。
Dimensity 9300のトランジスタ数は227億個と発表しました。基本的にはトランジスタ数が多いほどより効率的に電力を供給できるようになり、CPUやGPUの性能が向上します。
ちなみに、従来品のDimensity 9200は170億と発表されていたため、単純計算すると33.5%も密度が増えました。また、競合他社の3nmプロセスで製造されたA17 Proは約190億個なのでDimensity 9300は密度で言えばはるか先を進むAppleを上回ることに成功しました。
Dimensity 9300のCPUは4基の超高性能コアと4基の高性能コアで構成され、非常にユニークな「オールビッグコア構成」を採用しています。Qualcommやサムスン電子などの製品では省電力性に優れたコアを採用していますが、Dimensity 9300では高性能コアが省電力コアと同様の働きをするように設計されています。
CPUの詳細な仕様は、最大3.25GHzで動作するCortex-X4を1基と最大2.85GHzのCortex-X4を3基、最大2.00GHzのCortex-A720を4基の1+3+4構成です。そのため、採用しているCPU IPが非常に珍しいものではありますが、構成としては普遍的なものになっています。
しかし、これらのCPU IPと同時に発表された省電力コアのCortex-A520を採用していないという点ではユニークであることには変わりありません。
そして、従来品のDimensity 9200やDimensity 9000では省電力コアが最大1.80GHzで動作していましたが、Dimensity 9300では高性能コアで最大2.00GHzに設定されています。つまり、高性能コアを採用しながら従来品より高いクロック周波数になっています。
このユニークな「オールビッグコア構成」を採用することでシングルコア性能は15%、マルチコア性能は40%の性能向上に成功しました。特にCortex-A520を採用しないことでマルチコア性能の成長が著しいです。
そして、省電力コアを採用しないことによる燃費の悪さが気になるところですが、MediaTekは従来品と比較して33%も省電力化に成功したと発表しました。Cortex-A720が最大2.00GHzとそこまで高くないことが起因していると考えています。
MediaTekはマルチコア性能の高さをアピールしており、ピーク時の性能はA17 Proを上回るとしています。Appleの製品とは大きな差がついていることが知られていましたが、MediaTekはユニークな構成を採用することでついに頂点に立ちます。
AnTuTu Benchmark v10における性能は213万点としています。これらのスコアを発表する際はラボスコアと呼ばれる通常ではありえない環境でのものになりますが、MediaTekが発表したものは常温、つまり普通の環境となります。
そして、さらにラボスコアでは同ベンチマークで220万点を発揮すると発表しました。競合他社のQualcommの最新製品 (Snapdragon 8 Gen 3)は約214万点としているため、Android陣営でも頂点に立つことに成功しています。
AI時代とも呼べる2024年に備えてMediaTekはDimensity 9300に7世代目のAPU 790を採用しました。1世代前のAPU 690と比較して2倍の整数演算性能、2倍の浮動小数点演算性能、45%の電力効率を実現しました。
AIの性能を計測するETHZ AI Benchmark v5.1では2,109点を達成。この数値だけを見ても何がすごいのかわからないので実例を出すと、従来のDimensity 9200が1,100点、Google Tensor G3が576点です。
また、AI性能を誇示するためにMediaTekは、Dimensity 9300は70億パラメータの大規模言語モデルを1秒あたり20トークンも実行できます。さらに、同製品はRAM容量を24GBに拡張すると130億パラメータの大規模言語モデルを処理できるとしています。
さらに素晴らしいことにピーク時では最大330億パラメータの大規模言語モデルを処理できるとしており、Qualcommの最新製品が100億としているので単純に3.3倍も処理できると言えます。
テキストからいろいろなものを生成できるようになっており、その実例として詩 (ポエム)や画像、ミームを生成できると発表。実際に発表会ではDimensity 9300を搭載した実機を機内モードに設定し、画像を瞬時に生成する様子を見せていました。
MediaTekは中国のvivoと共同でAIアシスタント「藍心小V」を開発したと発表しました。こういったAIアシスタントはAppleのSiriが最強格ですが、優れたAI性能を持つDimensity 9300を利用することで追い越そうとしています。
サポートする大規模言語モデルは、AndroidのAI foundational models、Baidu (百度)のERNIE-3.5、MetaのLlama 2、Baichuan Intelligent (百川智能)のBaichuanとしています。国際的なものから中国国内における大規模言語モデルをサポートしており、無敵と言えそうです。
GPUは最大1300MHzで動作するImmortalis-G720 MC12を採用し、メモリの帯域幅が40%も最適化、ハードウェアレイトレーシングは46%も性能向上、可変レートシェーディングの性能は86%も向上したと発表しました。
詳細なGPU性能として、Dimensity 9200と比較して性能は46%も向上、電力効率は40%も改善したとしています。ArmのImmortalis GPUは性能を最優先に考えたものではありますが、優れた開発を行ったため世代を重ねることで消費電力の削減に成功しています。
より数値で表されるGPU性能は、GFXBench v5.0.6の1440p Aztec Ruins Vulkanでは99fpsの性能を発揮しました。数値が高いほうが性能が高く、Qualcommの最新製品は96fps、Appleの最新製品は64fpsとしているため、Dimensity 9300はCPU性能とGPU性能ともにA17 Proを上回っていることになります。
さらに、同ソフトウェアの1080p Manhattan 3.1では344fpsでQualcommの最新製品と比較して23%も高速だとしています。Android陣営ではQualcommのAdrenoが圧倒的な優位性を発揮していますが、こういった状態になると誰が予想したでしょうか。
ISPはImagiq 990を採用。最大16レイヤーに分けて撮影を最適化することができます。また、サポートする最大画素数は3億2000万画素としています。
MediaTekの弱さのひとつとして写真や動画の品質が挙げられますが、Sonyと協力して10bitのSDR動画を14bitのDCG HDR動画にしたり、サムスン電子と協力して2億画素カメラでの処理速度を222%も高速化したり、OMNIVISIONと協力して電力効率を53%も最適化することに成功しています。
Dimensity 9300はvivoが初採用すると発表会で明らかにし、11月13日にvivo X100シリーズに搭載すると発表しました。vivoはDimensityを精力的に採用している企業のひとつで、今回もその協力関係をアピールしました。
この他に、OPPOの副総裁とXiaomi Groupのスマートフォン事業部総裁が登壇し、Dimensity 9300を早期に採用すると明らかにしました。
具体的な製品名は明らかにされませんでしたが、現時点ではOPPOはFind Xシリーズ、XiaomiはサブブランドのRedmiのK70シリーズで採用するとの見方が強いです。
日本市場でのDimensity 9300を搭載した製品の販売は現時点では可能性が低いですが、ここ最近はXiaomiがキャリアフリー (SIMフリー)のフラッグシップ市場を支配しようとしている動きが見受けられるので、可能性がまったくないとは言えない状態です。