台湾のMediaTekは2023年11月23日、新製品発表会をオフラインで開催し、Dimensity 8300を発表しました。この製品はDimensity 8200の正統な後継製品で、中国市場で搭載した製品が多く発表されると考えています。
今回の製品は、同じDimensity 8000シリーズに属するDimensity 8050や8020とは関係のない製品です。MediaTekが過去に行ったシリーズ再編によってこれらが追加されましたが、これらの元々の名称はDimensity 1300や1100です。
製品のつながりとしてはDimensity 8000と8100の後継製品がDimensity 8200、さらに次の後継製品がDimensity 8300となります。つまり、Dimensity 8300の祖はDimensity 8000です。
名称 | Dimensity 8300 | Dimensity 8200 | Dimensity 8100 |
CPU | 1x Cortex-A715
3x Cortex-A715 4x Cortex-A510 Refreshed (4MB L3 Cache) |
1x Cortex-A78
3x Cortex-A78 4x Cortex-A55 (4MB L3 Cache) |
4x Cortex-A78
4x Cortex-A55 (4MB L3 Cache) |
動作周波数 | 3.35GHz + 3.20GHz + 2.20GHz | 3.10GHz + 3.00GHz + 2.00GHz | 2.85GHz + 2.00GHz |
GPU | Mali-G615 MC6 r1p3 | Mali-G610 MC6 r0p0 | Mali-G610 MC6 r0p0 |
動作周波数 | 1400MHz
(HyperEngine Adaptive Game 2.0) |
950MHz
(HyperEngine 6.0) |
852MHz
(HyperEngine 5.0) |
NPU/DSP | APU 780
(Performance + Flexible) |
APU 580
(Performance + Flexible) |
APU 580
(Performance + Flexible) |
カメラ | Triple 14-bit Imagiq 980 HDR-ISP
3億2000万画素 or 3x3200万画素 |
Triple 14-bit Imagiq 785 HDR-ISP
2億画素 or 3x3200万画素 |
Triple 14-bit Imagiq 780 HDR-ISP
2億画素 or 3200万画素+3200万画素+1600万画素 5.0 Gigapixels per Second |
リフレッシュレート | MiraVision 880
120Hz (WQHD+) 180Hz (FHD+) |
MiraVision 785
120Hz (WQHD+) 180Hz (FHD+) |
MiraVision 780
120Hz (WQHD+) 168Hz (FHD+) |
エンコード/デコード | Encode: 4K@60fps H.265, H.264
Decode: 4K@60fps H.265, H.264, VP9, AV1 |
Encode: 4K@60fps H.265, H.264
Decode: 4K@60fps H.265, H.264, VP9, AV1 |
Encode: 4K@60fps H.265, H.264
Decode: 4K@60fps H.265, H.264, VP9, AV1 |
RAM | LPDDR5X (8533Mbps)
4MB System Level Cache |
LPDDR5 (6400Mbps) | LPDDR5 (6400Mbps) |
ストレージ | UFS 4.0 + MCQ | UFS 3.1 | UFS 3.1 |
Wi-Fi | Wi-Fi 6/6E (11ax) | Wi-Fi 6/6E (11ax) | Wi-Fi 6/6E (11ax) |
Bluetooth | Bluetooth 5.4
LE Audio |
Bluetooth 5.3
LE Audio |
Bluetooth 5.3
LE Audio |
位置情報 | GPS, BeiDou (北斗), GLONASS, Galileo, QZSS, NavIC | GPS, BeiDou (北斗), GLONASS, Galileo, QZSS, NavIC | GPS, BeiDou (北斗), GLONASS, Galileo, QZSS, NavIC |
通信 | 統合: 5G Modem
Sub-6GHz (DL: 5.17Gbps) |
統合: 5G Modem
Sub-6GHz (DL: 4.7Gbps) |
統合: 5G Modem
Sub-6GHz (DL: 4.7Gbps) |
充電規格 | - | - | - |
製造プロセス | TSMC 4nm N4P | TSMC 4nm N4 | TSMC 5nm N5 |
型番 | MT6897 | MT6896 | MT6895T |
Dimensity 8300の主な仕様は、製造プロセスはTSMC 4nm N4P、CPUは最大3.35GHzで動作するCortex-A715を1基、最大3.20GHzのCortex-A715を3基、最大2.20GHzのCortex-A510 Refreshedが4基の1+3+4構成、GPUが最大1400MHzで動作するMali-G615 MC6、RAM規格はLPDDR5X、内蔵ストレージ規格はUFS 4.0、モバイルデータ通信は5G NRに対応しSub-6GHz帯をサポート、この他の通信としてWi-Fi 6/6EとBluetooth 5.4をサポートします。
CPUは高性能なコアとしてCortex-A715を4基、高効率なコアとしてCortex-A510 Refreshedを4基採用しています。ちなみに、高効率側は最大3.35GHzで動作するものが1基、最大3.20GHzで動作するものが3基なので、実際には1+3+4構成となります。
性能は、従来品のDimensity 8200と比較して30%の電力効率の向上、20%の性能向上に成功したとしています。Dimensity 8200ですでに素晴らしい性能を発揮していましたが、さらに高い性能を発揮することに成功しています。
競合他社の製品としてMediaTekが上げたのはQualcomm社が2022年上半期に発表した製品としています。これに該当する製品はSnapdragon 8+ Gen 1で、同社はGeekbench 6.0におけるマルチコア性能は7%上回ったとアピールしました。
CPU性能の向上によって日常的な利用体験が向上し、Dimensity 8200と比較して消費電力は動画視聴時は7%減、SNS利用時は8%減、日常的な閲覧は11%減、ゲームプレイ時は25%減もしていると発表しています。
また、動画アプリやSNS、メッセージ、マップ、決済アプリの起動時間が早くなっており、最高で17%も早くなったとしています。「タイパ」と呼ばれる昨今、アプリの起動が早いのは非常に重要でしょう。
GPUは最大1400MHzで動作するMali-G615 MC6を採用し、Dimensity 8200と比較して消費電力が55%も減ったとしています (環境はGFXBench Manhattan 3.0 1080p)。
性能はすべてGFXBenchを基準としており、Manhattan 3.0 1080p環境で60%の向上、Aztec Ruins Vulkan 1440p環境で77%の向上、Aztec Ruins Vulkan 1080p環境で82%も向上したと発表しました。
Dimensity 8300のGPU性能は、GFXBench Manhattan 3.0 1080p環境においてSnapdragon 8+ Gen 1と比較して10%も高いとしています。GPUと言えばQualcommとも言えるAndroid陣営ですが、MediaTekがその常識を壊そうとしています。
また、MOBA (120fps 究極画質を1時間)をプレイした際、高性能なSnapdragon 8+ Gen 1と比較して24%も消費電力が少ないとアピールしました。もちろん最適化の壁が阻むものではありますが、ここまで優れてくると開発者も対応せざるを得ないでしょう。
また、この他の情報として昨今流行りのオープンワールド型のアプリでは、Dimensity 8300はSnapdragon 8+ Gen 1と比較して安定度が38%、平均フレームレートの安定度が11%も優れているとしています。
2023年はOpenAI社のChatGPTの登場 (普及)によってAI時代とも呼ばれており、MediaTekもそれに素早く対応。今回のDimensity 8300は同クラスの製品において生成AIに率先してサポートしています。
Dimensity 8300のAI性能はAI Benchmark v5基準で従来のDimensity 8200から3.3倍も向上したと明らかにしています。また、2倍の整数演算性能、2倍の浮動小数点演算性能を誇ります。
ETHZ AI Benchmark v5.0.3環境においてSnapdragon 8+ Gen 1と比較して、Dimensity 8300は23%も高いとしています。とにかくこの製品がSnapdragon 8+ Gen 1を上回っていることをアピールしており、Snapdragon 8+ Gen 1ではなくDimensity 8300を採用してほしい思惑が伝わってきます。
この優れたAI性能によって100億パラメータの大規模言語モデルをサポートし、素早く文章を作成し、瞬時に画像を生成できるとしています。この記事は筆者が頭を使って必死に書いていますが、Dimensity 8300を利用すると1分もかからず数秒でより優れた内容の記事ができると本気で思っています。
この生成AIを用いて通話時の声を上手に摘出したり、オフラインで英語から日本語に翻訳したり、アルバム内を高速で検索したり、Photoshopなどを利用していない画像を導き出したり、マジック編集機能を利用したりできます。
MediaTekはXiaomiと共同開発してデバイスで利用できる生成AIを作成し、新しいスマートな体験を利用できるとしています。
ISPはImagiq 980を採用し、4K HDRを撮影したり、夜間撮影時のノイズを減らしたり、色合いをスマートに表現できたりしています。また、この製品の大きな特徴はAV1デコードをサポートしている点です。
Dimensity 8200と比較して4K録画時の消費電力が10%も削減しており、これは発熱が起こりにくくなることを同時に意味しているので長時間録画ができる可能性を秘めています。
モバイルデータ通信は5G NRをサポートし、Sub-6GHz帯のみ利用でき、mmWave (ミリ波)は利用できません。Sub-6GHz帯はさまざまな国と地域で利用できますが、後者は日本やアメリカ、南アフリカなどの限られた国や地域でしか利用できない上、Sub-6GHz帯と異なって限られたエリアでしか利用できないので対応する意味合いは薄いでしょう。
ちなみに、性能としては独自の最適化行う5G UltraSave 3.0+をサポートし、5G通信を利用した際に電力消費をDimensity 8200と比較して20%も削減したとしています。5Gや4Gを始めとするモバイルデータ通信を利用している間はWi-Fiと比較して電力消費が大きくなる傾向にあるため、このような性能向上は嬉しいでしょう。
Dimensity 8300の発表に祝してXiaomi Group会長兼Redmiブランド社長が登壇し、この製品をRedmiが初搭載すると明らかにしました。
さらに、初搭載するのは共同開発したDimensity 8300-Ultraで、通常版と比較してAI性能を最適化しているとしています。製品の名称はRedmi K70Eで、今月中 (2023年11月中)にこの製品を発表すると案内しました。
Dimensity 8300-Ultraを初搭載するRedmi K70Eの性能は、AnTuTu v10において1,526,328点を発揮すると明らかにしました。
このスコアが高いのか低いのかわからない方に説明すると、Snapdragon 8+ Gen 1が約136万点、Snapdragon 8 Gen 2が約166万点です。つまり、Dimensity 8300は今年の製品には及びませんが、昨年の製品を上回る性能を有するということです。
発表会の最後ではOPPOの副総裁補佐、vivoの高級副総裁兼最高技術責任者がメッセージを寄せ、Dimensity 8300の発表を祝いました。
特に言及していないですが初搭載を行うXiaomiサブブランドのRedmiに続いて、OPPOとvivoが率先してDimensity 8300を採用する見込みです。両社はDimensity 8200の採用経験があるため、Dimensity 8300の性能を正しく発揮することができるでしょう。