フランスの企業のCrosscallのCORE-Z5が初搭載したQualcommのIoT向けSoCとなるQCM6490のベンチマークスコアが判明したので、Snapdragon 7シリーズの製品と比較します。
QCM6490はIoT向けですが、初搭載したCORE-Z5はスマートフォンとなっています。さらに、この製品の他にAGM G2シリーズも搭載しており、また、持続可能性 (サステイナブル)を追求するオランダ企業のFairphone (フェアフォン)もIoT向けのQCM6490を搭載したFairphone 5を発表する予定です。
QCM6490の主なスペックは、製造プロセスはTSMC 6nm N6、CPUはKryo 670で最大2.71GHzで動作するCortex-A78を1基、最大2.40GHzのCortex-A78を3基、最大1.96GHzのCortex-A55を4基の1+3+4構成、GPUは最大812MHzのAdreno 643、RAM規格はLPDDR5、内蔵ストレージ規格はUFS 3.1、5G通信に対応しSub-6GHz帯とmmWave (ミリ波)をサポート、この他の通信としてWi-Fi 6E、Bluetooth 5.2をサポートします。
QCM6490には似た名前の製品としてQCS6490がありますが、両製品の違いはWWANモデムを搭載しているかいないかです。QCM6490はモデムを搭載していますが、QCS6490は非搭載です。
QCM6490をSnapdragon 782Gと同じ扱いをしているメディアがありますが、CPUの部分を見るとCortex-A55が最大1.96GHzと最大1.80GHzで異なり、GPUもAdreno 643とAdreno 642Lで異なっていますので、別物として扱うのが正しいのではないかと私は考えています。
AnTuTu Benchmark v9におけるQCM6490の性能は、CPU性能は164,625点、GPU性能は191,238点、MEM性能は97,573点、UX性能は141,377点で、総合性能は594,813点となりました。
注意点は、QCM6490とSnapdragon 782GはLPDDR5 RAMに対応していますが、搭載した製品はLPDDR4X RAMを搭載しています。一方で、Snapdragon 778G 5Gの2製品はLPDDR5 RAMを搭載していますので、こちらはややGPU性能が高く算出されています。
CPU性能は164,625点で、Cortex-A55が最大1.80GHzに設定されているSnapdragon 782Gよりも低い性能が算出されています。これは、QCM6490を搭載した製品が他の製品とは異なって高い性能を発揮する必要がないため、VC (ベイパーチャンバー)などの散熱機構にそこまで力を入れていない可能性があると考えています。
GPU性能は191,238点で、こちらはSnapdragon 782Gよりも高い性能を発揮することに成功しました。Snapdragon 782GのGPUに採用されているAdreno 642Lの「L」はQualcommによる発表がないので憶測となりますが、個人的には「Low」を意味していると考えており、それに則ると通常のAdreno 642よりも性能が低いことを意味しています。また、Qualcommの命名規則では基本的に数字の大きい方が性能が優れるので、Adreno 643はAdreno 642よりも性能が高いということはAdreno 642Lよりも性能が高いことになるので、このような差が生まれたのではないかと考えています。
Geekbench 6におけるQCM6490の性能は、シングルコア性能が1,126点、マルチコア性能が2,988点となりました。Geekbench 6はAnTuTu Benchmarkと異なって基準点が設定されており、2022年1月に発表されたPC向けのIntel Core i7-12700のシングルコア性能が2,500点に設定されています。そのため、このCPUを基準として倍の計測時間であれば1,250点、半分の計測時間であれば5,000点となりますので、基準点が設定されていることで自分が所有するデバイスのCPUがどの程度の性能なのかわかりやすくなっています。
シングルコア性能は1,126点で、同じく最大2.71GHzに設定されているCortex-A78を搭載したSnapdragon 782Gと近い性能を発揮しました。このシングルコア性能は瞬間的な処理に強いため、数値が高ければ高いほど素晴らしい体験が提供されます。
マルチコア性能は2,988点で、残念ながらSnapdragon 782Gの3,047点よりも低い性能が発揮されました。4基のCortex-A55が最大1.80GHzではなく最大1.96GHzに設定されているのでもう少し高い性能を発揮する必要がありますが、今回はその数値のとおりにならず低い性能が発揮されてしまいました。
これはAnTuTu Benchmarkの際にも記載しましたが、QCM6490を搭載した製品は散熱機構がSnapdragon 782Gを搭載した製品ほど優れたものではない可能性が考慮されます。また、搭載製品のCORE-Z5やAGM G2シリーズは、日本の京セラが開発しているTORQUE (トルク)と同じくタフネススマホと呼ばれる製品で、アメリカ合衆国の国防省 (DoD)が制定したMIL (ミル)規格のMIL-STD-810Hに適合するためにやや熱がこもりやすいのも要因になっているのかなと感じています。
QCM6490はSnapdragon 782Gよりも高いスペックですが、IoT向けの製品として開発されていることが関係しているのか、やや低い性能を発揮する時がありました。素直に性能を発揮したいのであればSnapdragon 782Gを採用すべきですが、IoT向けのQCM6490を採用した企業がいくつかあるのは、QCM6490のほうが供給価格が安い可能性が考えられます。
ただ、QCM6490を単体で見ると現在の基準でミドルハイの性能を発揮しており、心配無用のまったく問題のない製品です。そのため、Snapdragon 782Gと比較するといくつか劣った部分が見えてきますが、「QCM6490を搭載しているから」という理由で下に見てしまうのは非常のもったいないです。
日本ではQCM6490を搭載した製品が多く出回ることはないと思いますが、業務用デバイスとしてどこかの企業で役に立つ可能性があります。そのため、私を含めた人たちはQCM6490というIoT向けSoCが世の中に存在していて、搭載した製品がいくつか発表されていると認識するだけでいいでしょう。