Huaweiが新SoCとしてKirin 9000sを発表しました。2020年10月に発表したKirin 9000が制裁によって最後の製品となりましたが、さまざまな技術革新を経て新しいKirin SoCがおよそ3年ぶりに登場しました。
KirinチップはHuawei完全子会社HiSiliconが開発しており、HiSiliconが開発したチップをファウンドリに委託して製造してもらい、規格に適合したチップにHuaweiが商品名をつけて製品に搭載しているといった流れです。
名称 | Kirin 9000s | Kirin 9000 | Kirin 990 5G |
CPU | 1x TaiShan v200
3x Unknown Cores 4x Cortex-A510 Refreshed (4MB sL3 Cache) |
1x Cortex-A77
3x Cortex-A77 4x Cortex-A55 (4MB sL3 Cache) |
2x CortexA76*
2x Cortex-A76* 4x Cortex-A55 (4MB sL3 Cache) |
動作周波数 | 2.62GHz + 2.15GHz + 1.53GHz | 3.13GHz + 2.54GHz + 2.04GHz | 2.86GHz + 2.36GHz + 1.95GHz |
GPU | Maleoon 910 4CU | Mali-G78 MP24
(Kirin Gaming+ 3.0) |
Mali-G76 MP16
(Kirin Gaming+ 2.0) |
動作周波数 | 750MHz | 759MHz | 600MHz |
NPU/DSP | Da Vinci Architecture 3.0 (?)
1x Ascend Lite 1x Ascend Tiny 2x Vector Core |
Da Vinci Architecture 2.0
2x Ascend Lite 1x Ascend Tiny |
DaVinci Architecture
2x Ascend Lite 1x Ascend Tiny |
カメラ | Kirin ISP 7.0 (?) | Kirin ISP 6.0 | Kirin ISP 5.0 |
リフレッシュレート | ? | ? | ? |
エンコード/デコード | ? | ? | ? |
RAM | LPDDR5 (3200MHz)
4MB System Level Cache |
LPDDR5 (2750MHz)
LPDDR4X (2133MHz) 8MB System Level Cache |
LPDDR4X (2133MHz)
4MB System Level Cache (?) |
ストレージ | UFS 3.1 | SFS 1.0
UFS 3.1 |
UFS 3.0 |
Wi-Fi | Wi-Fi 6 (11ax) | Wi-Fi 6 (11ax) | Wi-Fi 6 (11ax) |
Bluetooth | Bluetooth 5.2 | Bluetooth 5.2 | Bluetooth 5.1 |
位置情報 | GPS, A-GPS, GLONASS, 北斗 (BeiDou), Galileo, QZSS, NavIC | GPS, A-GPS, GLONASS, 北斗 (BeiDou), Galileo, QZSS, NavIC | GPS, A-GPS, GLONASS, 北斗 (BeiDou), Galileo, QZSS, NavIC |
通信 | 統合: Balong Modem | 統合: Balong 5000
Sub-6GHz/mmWave (DL: 4.6Gbps/UL: 2.5Gbps) |
統合; Balong 5000
Sub-6GHz/mmWave (DL: 2.3Gbps/UL: 1.25Gbps) |
充電規格 | ? | ? | ? |
製造プロセス | SMIC 7nm N+2 | TSMC 5nm N5 | TSMC 7nm EUV N7+ |
型番 | Hi36A0-CN | Hi36A0-TW | Hi3690-TW |
現時点で判明しているKirin 9000sの主なスペックは、製造プロセスはSMIC 7nm N+2、CPUは最大2.62GHzで動作するTaiShan v200を1基、最大2.15GHzの不明なコアを3基、最大1.53GHzのCortex-A510 Refreshedを4基の1+3+4構成、GPUは最大750MHzのMaleoon 910、RAM規格はLPDDR5、内蔵ストレージ規格はUFS 3.1、モバイルデータ通信は5G NRに対応しているとの噂もありますが少なくとも4G LTEに対応、この他の通信としてWi-Fi 6とBluetooth 5.2をサポートします
CPUはCortex-A34を1基、Cortex-A78AEを3基、Cortex-A510を4基の1+3+4構成を採用しているとの情報が最初に流れましたが、現時点での情報によると一部は誤りで、自社開発CPUを採用していることが判明しています。
確かにCPUの識別子は3330と3394でしたが、これはArm CPU IPを採用したときにCortex-A34とCortex-A78AEになりますが、実際には72_3330と72_3394を採用しているのでArm CPU IPを採用していません。
この72を16進数に変換すると0x48となり、この数値はHuaweiの完全子会社HiSiliconを意味します。そのため、72_3330はArmの3330ではなくHiSiliconの3330を採用していることになるため、Cortex-A34を採用しているというのは偽の情報となります。
そして3330を16進数に変換すると0xd02となり、これはCPUの識別子リストをみるとTSV200もしくはLINXICORE9100と判明しました。後者のLINXICOREは自動車向けに採用すると考えられているため、Kirin 9000sが採用しているものはTSV200ことTaiShan v200と判別できます。
最大2.62GHzのコア名称がTaiShan v200と判明し、残りの最大2.15GHzで動作する72_3394を判別する必要があります。同様に72はHiSiliconを意味し、3394は16進数に変換すると0xd42になるためCPUの識別リストを見て判別しようと思ったのですが、記事を執筆している2023年9月時点では更新されていませんでした。Huaweiの公式発表があるまでは不明です。
この自社開発CPUは他にも特徴があり、それは他のCPUと異なってワンコアツースレッドを採用している点です。つまり、Kirin 9000sのCPUは8コア12スレッド構成となり、その他の企業の製品と比較してマルチタスクの面で大きな優位点があります。
つまり、Intelが呼称する「ハイパースレッディング」をモバイルデバイス向けSoCに採用しており、この自社開発CPUによってQualcommやMediaTek、ひいてはAppleをも超えることに成功しました。ワンコアツースレッドを採用することでマルチコア性能が高くなり、Kirin 9000よりもこの部分で性能が高くなっているようです。
高効率な最大1.53GHzで動作するCortex-A510は、TCS21でのCortex-X2を発表したときのものと、TCS22でのCortex-X3を発表したときのものがあります。それぞれのCortex-A510の違いはAArch32 (32bit)をサポートするのかしないのかで、最初に発表されたものはAArch64のみ、その翌年に発表されたものはAArch32もサポートします。
どちらを採用しているのかについてはRevisionを見ると判別でき、r0であればTSC21、r1であればTSC22となります。例えばSnapdragon 8+ Gen 1であればr0になっていると思いますが、後継製品のSnapdragon 8 Gen 2はr1になっていると確認できると思います。それを考慮してKirin 9000sの情報を見るとr1になっているので、Cortex-A510 Refreshedを採用していると判明しました。
GPUはKirin製品が継続的に採用してきたArm Mali GPUではなく完全自社開発のMaleoon 910を採用しています。名称のMaleoonは三国時代の政治家「馬 良 (Ma Liang)」から来ているとされていますが、こちらもHuaweiからの発表がないため不明です。
このMaleoon 910は完全自社開発GPUということもあって、多くのアプリで最適化されておらず正しく動作していない様子が見受けられます。この自社開発GPUに対応する必要があるまでにシェアを広げる必要がありますが、現時点でのKirin 9000sを搭載した製品の販売の様子を見ると、少なくとも中国市場でアプリを展開する人は対応する必要がありそうです。
製造プロセスはSMIC 7nm N+2とTechinsightが分析しています。このN+2はTSMCの7nmプロセス相当とされている製造プロセスで、N+1の次世代のプロセスとなります。SMICは制裁によってEUV (極端紫外線)露光が使用できずDUV (深紫外線)露光を使用しないといけない状況にあるので10nmプロセス未満の開発が難しい状況にありますが、知識と技術と努力を総動員して7nmプロセスの製品の量産を達成することが出来たのは称賛に値するでしょう。
しかし歩留まりは非常に悪いとされ、1世代前のN+1が50%未満との報道があるため、N+2はさらに悪いと考えてもいいでしょう。噂レベルではありますが40%どころではなく20%を下回っているとの情報があるため、量産に成功しましたが歩留まりが70%から80%の「安定した」量産には成功していません。
Kirin 9000sを初搭載した製品は2023年8月29日に静かに発表したHUAWEI Mate 60 Pro (ALN-AL00)で、Huaweiは現時点ではこの製品にKirin 9000sを搭載したとは明言していません。そのため、「HuaweiはMate 60 Proを静かに発表し、この新しい製品に未発表のKirin 9000sが搭載されていることが確認できた」という状態なので、現時点ではKirin 9000sは未発表の製品です。
現時点ではHUAWEI Mate 60 ProのみがKirin 9000sを搭載しており、価格は12GB+512GBモデルが6499元 (約131,000円)、12GB+512GBモデルが6999元 (約141,000円)、12GB+1TBモデルが7999元 (約161,000円)に設定されています。