HONOR 80 Proが初搭載した低クロック版のSnapdragon 8+ Gen 1のAnTuTu Benchmark v9とGeekbench 5における性能が判明したので、通常版のSnapdragon 8+ Gen 1、Snapdragon 8 Gen 1、Snapdragon 888 5Gと比較します。今記事では基本的に「Gen 1」を名乗る製品で比較を行っており、Snapdragon 888 5Gは従来製品なので参考として並べています。
今回の比較で取り上げる「性能」はピーク時の性能を意味しており、安定して高い性能を継続的に発揮する安定性については考慮していません。安定性について知りたい場合は、搭載した製品を購入する他にないと考えています。
そして、AnTuTu Benchmarkを提供するAnTuTuは、AndroidとiOSの異なるOSでの性能の比較を不適当だと声明を発表しているので、例えばAndroid搭載製品が100万点、iOS搭載製品が200万点でも優劣をつけることは出来ません。TwitterなどのSNSを見ると、Androidの性能とiOSの性能を比較している人を見かけますが、残念ながら意味のない比較です。
低クロック版Snapdragon 8+ Gen 1の主なスペックは、製造プロセスがTSMC 4nm N4、CPUがKryoで具体的には3.00GHzで動作するCortex-X2を1基、2.50GHzで動作するCortex-A710を3基、1.80GHzで動作するCortex-A510を4基の1+3+4構成、GPUはAdreno 730を搭載しクロック数は900MHzに設定されています。この他、RAM規格はLPDDR5、内蔵ストレージ規格はUFS 3.1、5G通信はSub-6GHz帯とmmWaveに対応しています。
通常版Snapdragon 8+ Gen 1と比較すると、CPUのクロック数が減少しGPUのクロック数は据え置きとなっているため、CPUの性能は確実に下がるでしょう。ただ、面白いことにGPUのクロック数は900MHzで共通なので、CPUが動作することによる発熱が発生しにくくスロットリングがゆるくなる可能性があるため、どちらかというと安定度に関しては低クロック版Snapdragon 8+ Gen 1が上回る可能性があります。
Snapdragon 8 Gen 1と比較すると、製造プロセスがSamsung 4nmからTSMC 4nmに変更されており、CPUはクロック数がほぼ同じに設定、GPUのクロック数は818MHzから900MHzへ上昇しています。注意点としてCPUのクロック数が「ほぼ同じ」ですが、高効率なCortex-A510のクロック数が1.79GHzと1.80GHzで0.01GHzの差があるため、この部分でどちらを搭載しているのか見分けてほしいと思います。
低クロック版Snapdragon 8+ Gen 1のAnTuTu Benchmark v9における性能は、CPU性能が253,467点、GPU性能が469,851点、MEM性能が191,663点、UX性能が175,525点で、総合的な性能は1,090,506点となりました。
通常のSnapdragon 8+ Gen 1と比較すると、CPU性能は13,000点の差、GPU性能は同等となりました。CPU性能に関しては、CPUを構成するCortex-X2、Cortex-A710、Cortex-A510のすべてでクロック数が減少しているので、妥当な性能を発揮したと思います。GPU性能に関しては900MHzで共通なので、こちらも妥当な性能を発揮しました。
Snapdragon 8 Gen 1と比較すると、CPU性能は13,000点の差、GPU性能は33,000点の差で、どちらの性能も優れる結果となりました。CPUのクロック数がほぼ同等なのに、Snapdragon 8 Gen 1が劣ってしまった理由として考えられるのは、Samsung 4nmとTSMC 4nmの設計の差で、後者のほうが流れた電流を効率的に利用できるのかもしれません。
Geekbench 5における性能は、シングルコア性能が1,272点、マルチコア性能が3,937点となりました。Geekbenchには基準点となるCPUが存在しており、2017年に発表されたIntelのCore i3-8100が発揮するシングルコア性能が1,000点に設定されています。そのため、計測した製品が2,000点を発揮すれば、単純にCore i3-8100の2倍の性能を有していると解釈できます。
シングルコア性能はCortex-X2の性能を意味しており、最大3.19GHzに設定されている通常版Snapdragon 8+ Gen 1と比較して5%ほど劣る性能を発揮しました。0.19GHzの差が正しく発揮されているので、何も問題はありません。
共通して3.00GHzに設定されているSnapdragon 8 Gen 1と比較すると、3%ほど優れた性能を発揮しました。共通のクロック数で異なる性能を発揮した理由として考えられるのは、先程も記載しましたが、Samsung 4nmとTSMC 4nmの設計の差で、流れた電流を効率的に利用し高い性能を発揮できるからだと思います。
マルチコア性能はCortex-X2、Cortex-A710、Cortex-A510の総合的な性能を意味しており、通常版Snapdragon 8+ Gen 1と比較して11%ほど劣る性能を発揮しました。低クロックに仕上がっており、高性能なCortex-A710が大きく減少しているので下がるのは致し方ないと思います。
Cortex-A510のクロック数が0.1GHzしか変わらないSnapdragon 8 Gen 1と比較すると、5%ほど優れた性能を発揮しました。ほぼ同じクロック数を採用しているのに差が発生したのは、シングルコア性能のときと同様に設計による差と、今回はCortex-A510の0.01GHzの差が要因だと考えています。
低クロック版Snapdragon 8+ Gen 1は、通常版Snapdragon 8+ Gen 1とSnapdragon 8 Gen 1の間に位置する製品で、面白い製品が誕生したと思っています。通常版Snapdragon 8+ Gen 1ほどの性能はいらないが、Snapdragon 8 Gen 1での過度な発熱と性能の低下は看過できないという人にはぴったりな製品だと思います。
そして、低クロック版Snapdragon 8+ Gen 1はCPUのクロック数が通常版Snapdragon 8+ Gen 1から下げられたことによって、高いGPU性能を継続的に発揮できるようになり、高負荷を要求をするゲームで長い間快適に遊べるようになると思います。そういったことを考えると、ゲームを頻繁にする人にとっては低クロック版Snapdragon 8+ Gen 1のほうが快適な可能性があります。
今回は便宜上「低クロック版」と名付けていますが、市場では発揮する性能が異なるSnapdragon 8+ Gen 1が混在している状況なので、欲しい製品が搭載したSnapdragon 8+ Gen 1がどちらなのかを公式サイトのスペック表を見てしっかりと認識する必要があります。幸い、多くのメーカーは3.19GHzなのか3.00GHzなのか正しく記載しているので、スペック表を見て間違うことはないと思いますが、そのような差に気づけるのは我々のような携帯電話業界に興味のある人だけなので、伝える側の「正しく伝えること」が重要になるのではないかと思います。
何が言いたいのかというと、「異なる性能を発揮するのに同じ名前」は不要な問題が発生する可能性があり、低クロック版Snapdragon 8+ Gen 1は何かわかりやすい名称があればよかったのではないかと思います。ただ、このような展開はQualcommは過去に行っていますし、AppleもiPhone 13とiPhone 13 Proが搭載したA15 Bionicでも行われているので、私が考えすぎなのかもしれません。
でも、私は「何か名前が欲しいな」と思いますし、今からでも名前をつけてほしいと思います。