HUAWEIの子会社のHiSiliconによってHUAWEIとHonor向けモバイルプロセッサー「HiSilicon Kirin 710」が発表されました。数多のミドルレンジモデルに採用されているKirin 659の後継機ではなく、別のシリーズとして発表されています。
HiSilicon Kirin 710の主なスペックは、製造プロセスが12nm FinFET、CPUが4x ARM Cortex-A73(2.2GHz) + 4x A53(1.7GHz)のオクタコア構成、GPUがARM Mali-G51 MP4(クロック数不明)、LTE Cat.12/13、4G+4GのDSDVに対応となっています。HUAWEIによるとKirin 659と比べてシングルコア性能が75%、マルチコア性能が68%、GPU性能が30%向上したようです。同社による革新的機能「GPU Turbo」にも対応し、快適なゲームプレイを楽しむことが出来るようです。
初搭載機となるHUAWEI nova 3iの発表会ではAnTuTuベンチマークスコアが13万点超であるということしか伝えられませんでしたが、フィリピンのメディアでは詳細なスコアが掲載されていましたので、他のプラットフォームやプロセッサーと比較をしたいと思います。
あくまでもベンチマークスコアでの比較になりますので、実使用感については考慮していないことを注意してください。
スペック表を見るとKirin 700シリーズはSnapdragon 700シリーズとは全く違う製品展開になっていることがわかります。そしてKirin 710もKirin 659とは全く違うものになっていますので、Kirin 700シリーズの設立自体は間違っていないように見受けられます。
製造プロセスがミドルレンジモデル向けに作られた中では最新の12nm FinFETになっており、16nm FinFET+と比較して高効率や省電力が期待できます。HiSilicon Kirin 600シリーズとの大きな違いはbig.LITTLE方式を採用した点で、これによって高性能化と共に省電力が期待できます。GPUに使用されているMali-G51はMali-T830の後継機に近く、グラフィックス性能と電力効率が60%向上し、エリアサイズが30%の縮小に成功しています。ですので、Kirin 659の倍を搭載することが出来たというのが一般的に考えられます。
今の所AIDA64を使ってGPUを細かく見た人やメディアが存在しないのでクロック数は不明にしています。もしクロック数が下がっていてもGPUの1コアそのものの性能向上や従来機の倍となる4コアを搭載しているので、確実にスコアは上回るでしょう。
追記
「Snapdragon 636が仮想敵なのではないか」という言葉が多かったので、Snapdragon 636の大まかなスペックを記述しておきます。
Snapdragon 636のスペックは、製造プロセスが14nm FinFET LPP。CPUが4x A73(1.8GHz) + 4x A53(1.6GHz)をセミカスタムしたQualcomm Kryo 260、GPUはAdreno 509でクロック数は不明、RAM規格はLPDDR4X、LTE Cat.12/13となっています。
これを見ると「Kirin 710の仮想敵がSnapdragon 636なのではないか」という言葉が多いのもうなずけます。
AnTuTuベンチマーク
Kirin 710のAnTuTuベンチマークスコアは138,583点の14万点弱という結果になりました。Kirin 659からは1.6倍の成長に成功し、このグラフからはCPU性能の成長が大きく関わっているように感じます。
Snapdragon 710とは約31,000点差、Snapdragon 660とは約6,000点差となっています。仮想敵として挙げられているSnapdragon 636の総合性能は115,000点程なので、約23,000点も上回っています。一方でSnapdragon 636を搭載したASUS ZenFone 5のスコアは14万点弱となっていますが、これはAIブーストという機能をONにして計測したスコアなので正確な比較には使用できないと思っています。
CPU性能はミドルハイモデルとしては普通のスコアとなる66,595点となりました。Kirin 659からは1.6倍の成長に成功しており、これは製造プロセスが細かくなったこと、bigコアとしてA73を搭載したことが大きいでしょう。
ちなみにSnapdragon 636は55,500点程ですので1.2倍ほど性能を上回っていることになります。
GPU性能はkirin 659から1.7倍成長した21,853点となっています。Helio P60のスコアが29,744点ということを考えると少し物足りないというイメージがあります。ただ、HUAWEIやHonorにはGPU Turboという特定条件下でGPUを最適化する革新的機能がありますので、最高設定でゲームをしなければミドルハイモデルの中ではかなり快適にゲームが出来るのではないかと思います。
このGPU Turbo機能がAnTuTuベンチマークでは作動せず、ベンチマークチーティング(ベンチマークの最適化)の槍玉に上がることがないというのはさすがの開発力です。
ちなみにSnapdragon 636のGPU性能は21,059点でKirin 710とはあまり点数に差がありません。
この数値が高いと実使用における快適性が高いということになります。今の所快適に利用できる(文句の出ない)数値は4万点以上が目安になっていますので、Kirin 710は37,429点ということで下回ってしまいますが、四捨五入したら基準点になりますのでそこまで気にする必要はないかもしれません。HUAWEI P20/P20 Proと同じことをしたい場合にはどこか劣ってくる場合があるかもしれませんが、ヘビーな利用をしないのであれば問題はないと思います。
Kirin 659からは1.6倍の成長です。
MEM性能はRAMと内蔵ストレージ読み書きの速さを計測し、この数値が高いとCPU性能も高くなるようです。HiSilicon Kirinはこの数値が高くなる傾向があり、今回も惜しみなくスコアに表れています。
Kirin 659からは1.5倍の成長です。
Geekbench
シングルコア性能はA73(2.2GHz)ということでSnapdragon 660と同等レベル、マルチコア性能がLITTLEコアが1.7GHzということが関連してSnapdragon 660やHelio P60よりスコアが低くなっています。Kirin 659からはシングルコア性能が1.7倍、マルチコア性能が1.5倍の成長となっており、HUAWEIが発表した数値とおおよそ同じになります。
総括
Kirin 700シリーズを立ち上げたという事実は喜ばしいことですが、同じ数字のシリーズを立ち上げているQualcommのプラットフォームには全く歯が立っていないというのは消費者にとっては混乱の元ではないでしょうか。素直にKirin 660としてリリースされていれば、従来機からの進化がすごいと評することが出来ますが、新シリーズとなるといまひとつです。
Kirin 659を搭載したスマートフォンの後継機がこれを搭載することになりますので、比較的価格の安いミドルハイモデルが出回ることになります。Snapdragon 660を搭載したスマートフォンはXiaomiを除いて高価になっている傾向がありますので、これに近い性能が安く手に入るという事になれば多くのシェアを獲得する事が出来るかもしれません。
初搭載となっているHUAWEI nova 3iの従来機となるHUAWEI nova 2iは日本ではリリースされていませんので、Kirin 710搭載機が日本に来るのにはもう少し期間が必要になると思います。現実的なラインナップだとHUAWEI Mate 20 lite(仮称)が初搭載機として日本に進出すると思うので、2018年末まではKirin 659でお茶を濁すしかありません。
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