MediaTekの2022年末から2023年の旗艦製品向けSoCのDimensity 9200のAnTuTu Benchmark v9とGeekbench 5の性能が判明したので、MediaTekが開発、提供を行った過去の旗艦製品向けSoCと比較を行います。
今回の比較で言及する「性能」はピーク時の性能を意味しており、安定して高い性能を継続的に発揮する安定性については考慮していませんので注意してください。ちなみに、私見ですが、安定性を知りたい場合は搭載した製品を購入する以外にないと思っています。
また、AnTuTu Benchmarkにおいては、開発を行っているAnTuTuがiOS搭載機とAndroid搭載機で発揮された性能を比較するのは不適当だと声明を発表しており、例えば、iOS搭載製品が100万点、Android搭載製品が200万点であったとしても優劣をつけることは出来ません。Geekbenchに関しては公式がクロスプラットフォームでの比較を認めていますので、発揮された性能を比較しても問題ありません。
Dimensity 9200の主なスペックは、製造プロセスがTSMC 4nm N4P、CPUは3.05GHzのCortex-X3を1基、2.85GHzのCortex-A715を3基、1.80GHzのCortex-A510 Refreshedを4基の1+3+4構成、GPUはImmortalis-G715 MC11でクロック数が981MHz、RAM規格がLPDDR5X、内蔵ストレージ規格はUFS 4.0、5G通信はSub-6GHz帯とmmWaveに対応しています。
CPUは現時点において最新のものを採用し、大きな特徴として設計を見直したCortex-A510 Refreshedを採用しています。Dimensity 9000が搭載した初版のCortex-A510はAArch32をサポートしていませんでしたが、設計を見直したCortex-A510 RefreshedはAArch32をサポートしているので、古いアプリを動作させることが可能になっています。ただ、その他のCortex-X3やCortex-A715はAArch32をサポートしていないので、古いアプリの動作は決して快適なものではないと思います。
GPUはImmortalisを冠するImmortalis-G715を搭載しています。同時期に発表したものとしてMali-G715がありますが、Dimensity 9200が搭載したものはそれの上位版となり、ハードウェアベースのレイトレーシングをサポートしています。最低積載数は10基で、今回は11基を採用しています。
RAM規格は現時点で最新のLPDDR5Xに対応していますが、現在はvivo X90 Proの12GB+512GBのみがDimensity 9200を搭載した製品でLPDDR5X RAMを採用しており、最高の性能を発揮するのはこのモデルしかありません。
製造プロセスはTSMC 4nm N4Pを採用しています。Android陣営においては一歩先を進んでおり、少し前のMediaTekの製品は競合他社と比較して様々な部分で劣っていましたが、すべての部分で最先端のものを採用しており、眠れる獅子が頭角を現してきたと感じます。
LPDDR5X RAMを搭載したDimensity 9200のAnTuTu v9における性能は、CPU性能が276,092点、GPU性能が552,385点、MEM性能が249,219点、UX性能が197,669点で、総合的な性能は1,275,365点となりました。
MediaTekはDimensity 9200の発表会で126万点を発揮することが出来ると発表していましたが、実際に製品が搭載するとほんの少しだけ点数が上がって127万点となりました。以前は試作製品より大きく性能が向上しましたが、最近は試作機が完全な性能を発揮できるような製品に仕上がっている場合が多いので、大きく上昇することは減りました。
Dimensity 9000と比較してCPU性能は約7%、GPU性能は約42%の性能向上に成功しました。CPUの性能向上幅が小さい理由として考えられるのは、クロック数が同じであることが挙げられます。GPUは世代が更新し積載数も増え、クロック数が大幅に上昇したので、それに追随して性能も大きく向上したと考えています。
CPU性能を専門的に計測するGeekbench 5の性能は、シングルコア性能が1435点、マルチコア性能が4482点となりました。
Geekbench 5には基準点が存在しており、2018年に発表されたIntel Core i3-8100が発揮するシングルコアの性能が1000点に設定されています。そのため、2000点を発揮した場合は単純に考えてCore i3-8100の倍の性能を通していると見ても問題ありません。
Dimensity 9000と比較して、シングルコア性能は約10%、マルチコア性能は約4%の性能向上に成功しました。
シングルコア性能はCortex-X3とCortex-X2の性能を比較しており、製造プロセスが異なりますが、同じクロック数であれば10%程度の差があることがわかりました。これは少ないように感じるかもしれませんが、現実としては飛躍的な性能向上に成功しています。
マルチコア性能はすべてのCPUの性能を比較しており、Armの発表ではCortex-A715はCortex-A710から5%、Cortex-A510 RefreshedはCortex-A510と性能が同等と発表されているので、大きな性能向上は実現しませんでした。
総合的に見ると、CPU性能の向上は少し、GPU性能の向上は大幅と言えます。性能が確実に向上しているので、Dimensity 9200はDimensity 9000の後継製品と見て差し支えはないでしょう。
CPU性能に関してはCortex-X2からCortex-X3に更新され、大きな性能の向上が確認できているので、使用感に差が生まれると考えています。そのため、総合的に見ると成長は少しですが、ひとつひとつを見ると大幅に成長しています。
GPU性能に関しては大幅な成長を見せており、確実に別物の働きを行ってくれるでしょう。ハードな要求を行う原神でも快適にプレイすることが可能で、よりよい体験を与えてくれるでしょう。また、原神を開発している企業もDimensity 9200の性能を見て更に高い要求を行うこともできるようになるので、より素晴らしいゲームになっていくでしょう。
今回の比較はLPDDR5X規格のRAMを搭載したvivo X90 Proで行いましたが、現時点はLPDDR5規格のRAMを搭載したDimensity 9200を搭載した製品が多く出回っている現状なので、本当の性能を発揮できるのは限られた製品しかありません。そのため、多くの消費者は本気を出していないDimensity 9200を搭載した製品を所有することになり、MediaTekとしては誤算だったのではないかと考えています。