台湾のMediaTekは2026年9月15日に中国で新製品発表会を開催し、次世代のフラッグシップ向けSoCとしてDimensity 9600 Proを発表しました。この発表会ではDimensity 9600Mも同時に発表されていますが、この記事ではDimensity 9600 Proに注目します。
| 名称 | Dimensity 9600 Pro | Dimensity 9500 | Dimensity 9400 |
| CPU | 2x C2-Ultra
3x C2-Pro 3x C2-Pro (L3 Cache: 16MB) |
1x C1-Ultra
3x C1-Premium 4x C1-Pro (L3 Cache: 16MB) |
1x Cortex-X925
3x Cortex-X4 4x Cortex-A720 (L3 Cache: 12MB) |
| 識別子 | 65_3478
65_3467 65_3467 |
65_3468
65_3472 65_3467 |
65_3461
65_3458 65_3457 |
| リビジョン | r0p1
r1p2 r1p2 |
r1p0
r1p0 r1p1 |
r0p1
r0p1 r0p1 |
| 動作周波数 | 4.55GHz
4.35GHz 3.10GHz |
4.21GHz
3.50GHz 2.70GHz |
3.63GHz
3.30GHz 2.40GHz |
| GPU | Mali G2-Ultra NX MC12 r0p2 | Mali G1-Ultra MC12 r0p1 | Immortalis-G925 MC12 r0p1 |
| 動作周波数 | 1820MHz | 1716MHz | 1612MHz |
| NPU/DSP | MediaTek NPU 1090 + Super Efficient NPU 2.0 | MediaTek NPU 990 | MediaTek NPU 890 |
| カメラ | Imagiq 1290 (?)
2億画素 |
Imagiq 1190
3億2000万画素 |
Imagiq 1090
3億2000万画素 |
| リフレッシュレート | 180Hz (WQHD+) | 180Hz (WQHD+) | 180Hz (WQHD+) |
| エンコード/デコード | Encode: 8K@30fps H.265, H.264
Decode: 8K@60fps H.266, H.265, H.264, VP9, AV1 Slow-mo: 4K@240fps |
Encode: 8K@30fps H.265, H.264
Decode: 8K@60fps H.265, H.264, VP9, AV1 |
Encode: 8K@30fps H.265, H.264
Decode: 8K@60fps H.265, H.264, VP9, AV1 |
| RAM | 4x24-bit LPDDR6 (10667Mbps - 113.8 GB/s)
4x16-bit LPDDR5X (10667Mbps - 85.3 GB/s) (System Level Cache: 10MB) |
4x16-bit LPDDR5X (10667Mbps - 85.3 GB/s)
(System Level Cache: 10MB) |
4x16-bit LPDDR5X (10667Mbps - 85.3 GB/s)
(System Level Cache: 10MB) |
| ストレージ | UFS 5.0 | UFS 4.1 | UFS 4 + MCQ |
| USB | ? | ? | ? |
| Wi-Fi | Wi-Fi 7 (11be)
(Peak: 7.3Gbps) |
Wi-Fi 7 (11be)
(Peak: 7.3Gbps) |
Wi-Fi 7 (11be)
(Peak: 7.3Gbps) |
| Bluetooth | Bluetooth 6.2 | Bluetooth 6.0 | Bluetooth 6.0 |
| 位置情報 | GPS, BeiDou, GLONASS, Galileo, QZSS, NavIC
(GNSS: L1CA / L5 / L1C) |
GPS, BeiDou, GLONASS, Galileo, QZSS, NavIC
(GNSS: L1CA / L5 / L1C) |
GPS, BeiDou, GLONASS, Galileo, QZSS, NavIC
(GNSS: L1CA / L5 / L1C) |
| 通信 | 統合: 5G Modem (Release-17)
Sub-6GHz (DL: >7.4Gbps) |
統合: 5G Modem (Release-17)
Sub-6GHz (DL: 7.4Gbps) |
統合: 5G Modem (Release-17)
Sub-6GHz (DL: 7Gbps) |
| 充電規格 | - | - | - |
| 製造プロセス | TSMC 2nm N2P | TSMC 3nm N3P | TSMC 3nm N3E |
| 型番 | MT6995 | MT6993 | MT6991 |
| 公式サイト | MediaTek | MediaTek | MediaTek |
新たに発表されたDimensity 9600 Proの主な仕様は、製造プロセスがTSMC 2nm N2P、CPUは最大4.55GHzで動作するC2-Ultraと最大4.35GHzで動作するC2-Proと最大3.10GHzで動作するC2-Proを2+3+3構成で採用、GPUは最大1820MHzで動作するMali G2-Ultra NX MC12で、RAM規格はLPDDR6に対応、内蔵ストレージ規格はUFS 5.0に対応し、モバイルデータ通信は5Gをサポートします。
Dimensity 9600 Proは最新の2nmプロセスを採用し、トランジスタ数は330億を超えていると発表しました。プロセスノード名は明らかにしませんでしたが、様々な情報からN2Pであることが判明しております。
MediaTekが採用したN2PはN2の改良版で、TSMCが公開している情報によると、N2と比較して5%の性能向上を達成しています。また、3nmプロセスのN3Eと比較して同じ消費電力で18%の速度向上、同じ速度で36%の消費電力削減、1.2倍のロジック密度、1.15倍のチップ密度を実現しています。ただ、残念なことにN3Pと比較したデータはありません。
このDimensity 9600 Proの設計はDTCO (Design-Technology Co-Optimization)と呼称される「設計とプロセスの同時最適化」を利用して行われています。これまでは「ファウンドリが定めた製造ルールに合わせて、設計者が回路を描く」手法と採用していましたが、プロセスの微細化が進み性能向上 (PPA)に限界点が見えてきたため、設計者は「プロセスの制約に合わせて設計を工夫」し、ファウンドリは「設計者の要求に合わせてプロセスを最適化」する双方向の最適化による設計となっています。
この説明だとファウンドリが弱い印象を受けるかもしれませんが、MediaTekやQualcommなどのファブレス企業はファウンドリが「製造しない」と言ってしまえば次世代SoCを開発し発表することが出来ません。そのため、ファウンドリはファブレス企業の要求に応えていますが、ファブレス企業はファウンドリが設定しているプロセスの要求に従う必要があるため、どちらが強くどちらが弱くといったことはありません。ただ、強いて表現するならファウンドリに製造の権限があるのでこちらのほうが強いのかもしれません。
MediaTekは、CPUの構成を発表する前に電力効率の向上を発表し、シングルコアでは37%向上、マルチコアでは61%も向上したと発表しました。発表ではマイナス表記になっていますが、上がった表記をすると増えたと勘違いされることがあるので消費電力がそれだけ下がったとアピールするためにこの表記を採用していると考えています。
詳細な構成としては、CSS for Mobile 2の最新CPUとなるC2-UltraとC2-Proを組み合わせ、これまでの設計と大きく異なる2+3+3構成を採用しました。これまでは1+3+4構成を採用しておりそれが普通のように思えましたが、Dimensity 9600 Proで新しい構成になり「進化」しました。
ただ、この設計思想自体は2017年10月に発表されたデカコアのHelio X30を思い出すと、2基のCortex-A73と4基のCortex-A53、4基のCortex-A53を組み合わせて2+4+4構成を採用していたのでその頃から存在していました。それを踏まえると、新しく採用したこの構成は奇抜ではなく、過去の設計思想を最新のものにアップデートしたものと言えるでしょう。
キャッシュに関しては、L2とL3とSLCを総合すると34.5MBになるようです。特にL2は前作のDimensity 9500から21%も向上しており、RAMにアクセスする回数を減らしてCPUのみでデータを扱って処理を早めることが出来るようになるでしょう。
シングルコア性能は、Geekbench 6.4基準でDimensity 9500から17%も向上しました。ただ、MediaTekはDimensity 9500の性能を大幅に下げる愚行をしており、今では沈静化しているものの発表時は中国では大荒れでした。それに関する記事はこちらを読んでください。
マルチコア性能では、同じくGeekbench 6.4基準でDimensity 9500から15%の向上を達成しました。シングルコア性能では愚行がありましたが、マルチコア性能はそういったことはなく誠実に行っているので安心してください。
新たなCPUを採用したことでアークナイツ:エンドフィールドの最高画質において、平均のフレームレートが59FPSで、Dimensity 9500と比較して同じフレームレートで30%の消費電力の削減に成功しました。
Dimensity 9600 ProのNPUは高効率なSuper Efficient NPU 2.0を搭載し、デバイス上で常時稼働する軽量AIモデルを実行した際の消費電力が40%も削減されました。そして、電力効率も大きく向上していることが発表され、1ワットあたりのトークン生成数が55%も向上しました。
性能を数値にすると、ETHZ AI Benchmark v7基準で22,631点になることが発表されました。競合他社の性能は、Snapdragon 8 Elite Gen 5が18,305点、AppleのA20 Proが10,442点と算出されており、確かに性能はかなり高いです。
大規模言語モデル (LLM)に関する性能も進化しており、プリフィルの性能がDimensity 9500と比較して51%も向上しました。簡単に言うと入力された文章やデータを理解し処理する性能が向上しました。
GPUはMali G2-Ultra NX MC12を搭載しており、3DMarkのSteel Nomad Light基準でDimensity 9500のピーク消費電力で18%高い性能を発揮できるようになりました。また、省電力性に関してはDimensity 9500のピーク性能を24%低い消費電力で発揮できるようになっており、性能の向上と電力効率の向上をしっかりと達成しています。
昔は「MediaTekのGPU性能は低い」と言われていましたが、Dimensity 9500はいくつかのテストでSnapdragon 8 Elite Gen 5より優れた結果を残しており、過去の常識が崩れつつあります。新発表のDimensity 9600 Proでも正しく性能向上に成功しているので、長らく頂点に立っていたQualcommは戦々恐々でしょう。
また、一般的なGPUだけでなくレイトレーシング性能の向上にも力を入れており、3DMarkのSolar Bay Extreme基準で18%の性能向上しました。現時点ではこのレイトレーシングは重要視されていませんが、高画質化の限界に達すると光の表現で差をつけるようになると言われているので、未来を見据えるうえでこの性能の向上は非常に大事です。
これらの性能の向上により、原神の最高画質設定の864Pで平均60FPSを達成し、Dimensity 9500と比較して同じフレームレートで10%の消費電力の削減に成功しました。原神は非常にヘビーなアプリですので、フレームレートが安定し消費電力も削減されるとより長時間快適にプレイできるようになりプレイヤーはうれしいでしょう。
また、発表会では特定名は出されていないものの画面は表示されているのでこちらでは特定名を出しますが、崩壊:スターレイルで平均60FPSを達成し、同じフレームレートで15%の消費電力の削減に成功しました。この崩壊:スターレイルは様々な発表会で特定名が出されないのですが、複雑な事情があるのでしょうか。
Dimensity 9600 Proは名称の「Pro」に相応しい進化をしています。ただ、通信面に関しては消極的な進化で、Qualcommは3GPP Release 19に準拠した最先端モデムを統合したので差がついています。最新こそが正義とは言えませんが、企業として最高で最先端を追求しているはずなのに、やや妥協している様子が見受けられるのは残念です。
この発表会にはvivoの高級副総裁の施玉堅 (Shi Yujian)氏が登壇し、2026年9月21日に発表するvivo X500 ProシリーズがDimensity 9600 Proを初搭載すると明らかにしました。この発表会が開催される前はOPPOとvivoが初採用を争っているといった情報がありましたが、最終的にはvivoが勝利しました。
vivoに続いてOPPOの副総裁の呉恒剛 (Wu Henggang)が登壇し、9月22日に発表するOPPO Find X10シリーズでDimensity 9600シリーズを採用すると明らかにしました。この記事では取り上げていませんが、同時にDimensity 9600Mも発表されており、OPPOはそれも採用すると表明しました。
発表会に登壇こそしませんでしたが、Xiaomiの総裁の盧偉氷 (Lu Weibing)氏、Honorの製品ライン総裁の方飛 (Fang Fei)氏、Transsionの副総裁の王海浜 (Wang Haibin)氏がビデオでDimensity 9600 Proの発表を祝福しました。早期採用は発表会に登壇したvivoとOPPO、ビデオで参加したXiaomiとHonor、Transsionは採用はほぼ確定だけどいつ発表なのか不明という感じでしょうか。


























