Qualcommは2023年3月17日に中国で新製品発表会を開催し、Snapdragon 7+ Gen 2を発表しました。
Snapdragon 7+ Gen 2はSnapdragon 7 Gen 1の正統な後継製品で、Snapdragon 7 Gen 2が存在しないまま「+」版が出たことになります。過去の製品では基本的にはベースモデルが存在して「+」版が発表されますので、今回はかなり異例の製品と言えそうです。
名称 | Snapdragon 7+ Gen 2 | Snapdragon 7 Gen 1 |
CPU | Kryo
1x Cortex-X2 3x Cortex-A710 4x Cortex-A510 (8MB sL3 Cache) |
Kryo 770
1x Cortex-A710 3x Cortex-A710 4x Cortex-A510 |
動作周波数 | 2.91GHz+2.49GHz+1.80GHz
(2.92GHz+2.50GHz+1.80GHz) |
2.40GHz+2.36GHz+1.80GHz |
GPU | Adreno 725 | Adreno 644 |
動作周波数 | 580MHz | 443MHz |
NPU/DSP | Hexagon | Hexagon |
カメラ | Triple 18-bit Spectra ISP
2億画素 or 1億800万画素(ZSL) or 6400万画素+3200万画素(ZSL) or 3x3200万画素(ZSL) 3.0 Gigapixels per second |
Triple 14-bit Spectra ISP
2億画素 or 8400万画素(ZSL) or 6400万画素+2000万画素(ZSL) or 3x2500万画素(ZSL) 2.5 Gigapixels per second |
リフレッシュレート | 60Hz(4K)
120Hz(QHD+) |
60Hz(QHD+)
144Hz(FHD+) |
エンコード/デコード | Encode/Decode: 4K@60fps 10-bit H.265, VP-9
HDR10+, HDR10, HLG, Dolby Vision Slow-mo: 1080p@240fps |
Encode/Decode: 4K@30fps 10-bit H.265, VP-9
HDR10+, HDR10, HLG, Dolby Vision Slow-mo: 720p@480fps |
RAM | LPDDR5(3200MHz)
2MB System Level Cache |
LPDDR5(3200MHz) |
ストレージ | UFS 3.1 | UFS 3.1 |
Wi-Fi | FastConnect 6900
Wi-Fi 6E (11ax) |
FastConnect 6700
Wi-Fi 6E (11ax) |
Bluetooth | FastConnect 6900
Bluetooth 5.3 LE Audio |
FastConnect 6700
Bluetooth 5.2 LE Audio |
位置情報 | GPS, Glonass, BeiDou, Galileo, QZSS, NavIC | GPS, Glonass, BeiDou, Galileo, QZSS, NavIC |
通信 | 統合: Snapdragon X62 5G Modem
Sub-6GHz/mmWave (DL: 4.4Gbps) |
統合: Snapdragon X62 5G Modem
Sub-6GHz/mmWave (DL: 4.4Gbps) |
充電規格 | Quick Charge 5 | Quick Charge 4+ |
製造プロセス | TSMC 4nm N4 | Samsung 4nm 4LPX |
型番 | SM7475-AB | SM7450-AB |
Snapdragon 7+ Gen 2の主なスペックは、製造プロセスはTSMC 4nm N4、CPUはKryoで2.91GHzで動作するCortex-X2を1基、2.49GHzで動作するCortex-A710を3基、1.80GHzで動作するCortex-A510を4基の1+3+4構成、GPUは580MHzで動作するAdreno 725、RAM規格はLPDDR5、内蔵ストレージ規格はUFS 3.1、モバイルデータ通信は5Gに対応しSub-6GHzとmmWaveをサポート、この他にWi-Fi 6E、Bluetooth 5.3に対応します。
Snapdragon 7 Gen 1と比較すると、製造プロセスは4nmプロセスで共通ですが製造場所がサムスン電子からTSMCへ変更され、CPUは非常に高性能なCortex-X2を採用する構成に大きく変更され、GPUはAdreno 6xxからAdreno 7xxへ世代が進化しました。
製造プロセスに関しては同じ4nmプロセスに基づいていますが、製造場所がサムスン電子のサムスンファウンドリから台湾のTSMCに変更されました。現状としてはTSMCの4nmプロセスのほうが優れているとされており、過度な発熱の抑制や安定性の向上が期待されます。
CPUはCortex-A710とCortex-A510を組み合わせた構成から、Cortex-X2を含むCortex-A710とCortex-A510を組み合わせた構成に変更されました。これにより、Qualcommは50%の性能向上に成功したと発表しており、まったくの別物になりました。ちなみに、Cortex-A510に関しては、Snapdragon 8 Gen 2が採用しているCortex-A510 Refreshedではないため、AArch32をサポートしていません。そのため、古いアプリを動作させる際はCortex-A710が動作することになりますので、こういった場面では省電力性はあまり期待できません。
GPUはAdreno 644からAdreno 725へ更新され、Snapdragon 8 Gen 1が採用したAdreno 730に非常に似た名前のGPUになりました。725と730で名称が異なっているので、いくつかの機能が削除もしくは無効化されている可能性が高く、たったの「5」の違いですが、同じ性能を発揮できるとは限りません。ちなみに、QualcommはSnapdragon 7 Gen 1と比較して2倍の性能向上に成功したと発表しており、CPUの性能と同様にまったくの別物のGPUになりました。
そして、高性能になった場合に気になる電力効率に関しては13%の改善に成功したと発表しており、Snapdragon 7+ Gen 2は非常に素晴らしいものになっています。従来の製品のSnapdragon 7 Gen 1と比較してCPU、GPU、電力効率が大きく成長しているので、正当な後継製品として発表されていますが、まったく新しいものが誕生したと見ても問題ないと思います。さらに、昨今のSoCに重要なAI性能も従来製品と比較して2倍になっていると発表していますので、さまざまな部分で大幅に進化していることがわかります。
勘がいい方はお気づきかもしれませんが、Snapdragon 7+ Gen 2はSnapdragon 8+ Gen 1と非常に似たスペックを持っており、CPUやGPUのクロック数を調整したモデルのように見えます。これに関しては後の記事で記しますが、上位SoCの調整版として誕生したことは否定しており、「同宗同源」と表現し、同じ起源を持つSoCであるけれども別物と発表しています。
CPUのクロック数に関してはカッコ内で2.92GHzと2.50GHz、1.80GHzの記載をしていますが、これは主要なベンチマークのひとつのGeekbenchで記載されている数値です。実はMHz表記に直すと、Cortex-X2は2918MHz、Cortex-A710は2496MHz、Cortex-A510は1804MHzとなるので、カッコ内の表記も間違いではないと見ることが出来ます。ただ、Qualcommが2.91GHzと2.49GHz、1.80GHz表記を採用している以上はこちらの数値が正しいものなので、本サイトではQualcommが記載したものを本当の数値として扱います。
今回の発表会ではXiaomiの重役が登壇し、Redmi NoteシリーズでSnapdragon 7+ Gen 2を初採用すると発表しました。記事執筆時では中国市場向けにRedmi Note 12 Turboが発表されており、Snapdragon 8 Gen 1に近い性能を持つ高性能なSoCがミドルレンジの製品に搭載されている驚きの現状がそこにあります。この他にrealme GT Neo5 SEも搭載しており、こちらも2000元(約38,500円)を下回るミドルレンジ製品として発表されているので、久々に「コスパ」の優れた製品となっています。
Snapdragon 7 Gen 1はその微妙な性能からXiaomiとOPPOしか採用していませんが、今回発表されたSnapdragon 7+ Gen 2は確かな性能と確かな省電力性を兼ね備えているので、さまざまな企業が採用する可能性を秘めています。ただ、サムスン電子のファウンドリではなくTSMCで製造されたことによって高価なチップになりやすい欠点を持っているため、採用はしたいけれども採用を見送るといった企業も出てくると思います。